著作権法の保護対象である「著作物」は、著作権法の規定では、
『(a)思想又は感情を
(b)創作的に
(c)表現したものであつて、
(d)文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの』
と定義されています(著作権法第2条第1項第1号)。
「音楽の著作物」は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」に該当すれば、「著作物」に含まれるものとされており、著作権法においても、「著作物」の一つとして例示されています(著作権法第10条第1項第2号)。
この「音楽の著作物」には、歌詞、楽曲等が含まれ、紙や記録媒体に固定されているものや、楽譜になっているものには限定されません。よって、例えば、即興演奏のように、記録されないもの(消え去るもの)であっても、「音楽の著作物」に該当します。
図-1 音楽の著作物
IoTの普及にともない、クラウド上に多くのデータ(ビッグデータ)が蓄積されます。そこで、AI(人工知能)がそのビッグデータを活用し、「音楽」の創作物を生み出すことが考えられます。すでに、AIによるコンテンツ制作の取組み事例は出てきています。
■スペインのマラガ大学は作曲をする人工知能「ラムス(lamus)」を開発。
■アルゴリスムによりわずか8分で楽曲を自ら作成。MP3や楽譜などの形式で書き出すことが可能。
■実際に作曲された楽曲を演奏する動画も公開され、販売もされている。
経済産業省新産業構造部会資料(平成27年12月)より引用
著作権法の保護対象である「著作物」は、前述の通り、著作権法第2条第1項第1号の規定により「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定義されていますが、AIによって創作された音楽は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」に該当しないものとして、著作権法による保護対象にはならないと考えられています。
また、「知的財産推進計画2016」(平成28年5月9日知的財産戦略本部)では、AI創作物について、
『AI創作物のうち、著作物に該当するような情報である音楽、小説といったコンテンツは、著作権制度が無方式主義をとっているため、創作と同時に知財制度が適用され、権利のある創作物に見えるものが爆発的に増える可能性が懸念されることから、優先的に検討していくことが必要である。その際、あらゆるAI創造物(著作権に該当するような情報)を知財保護の対象とすることは保護過剰になる可能性がある一方で、フリーライド抑制等の観点から、市場に提供されることで一定の価値(ブランド価値など)が生じたAI創作物については、新たに知的財産として保護が必要となる可能性があり、知財保護の在り方について具体的な検討が必要である』との見解が示されています。
また、「知的財産推進計画2017」(平成29年5月16日知的財産戦略本部)では、AI創作物について、
『AIを活用した創作について、AI生成物を生み出す過程において具体的な出力であるAI生成物を得るための人間の創作的寄与があれば、「道具」としてAIを使用したものと考えられ、当該AI生成物には著作物性が認められる。一方で、人間の創作的寄与がなければ、当該AI生成物はAIが自律的に生成した「AI創作物」であると整理され、現行の著作権法上は著作物と認められないこととなる』という見解が示されています。 以上のことからも、政府はAI創作物に対する知財保護に対して、検討・対策の方針を決めることが優先的課題であると認識していることがわかります。
したがって、AIによって創作された「音楽の著作物」の扱いについては、今後、著作権法の改正等の動向を注視することが必要であるとともに、自社の音楽の著作物が著作権法上の保護対象に該当するかどうか、自社のIoT事業が他社の著作権の侵害に該当するおそれが無いかどうか等を確認することが重要です。
自社のIoT事業が他社の著作権の侵害に該当するおそれが無いかどうか等の判断には、専門的な知識や経験が必要になりますので、まずは専門家にご相談ください。
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