標準規格とは、データの互換性や機器同士の相互接続等のために統一された規格のことです。 標準規格には、「公的なもの」や「私的なもの」、国際的なものや日本独自のもの等、いろいろなものがあります。
「公的なもの」としては、標準化団体が策定した「デジュール標準」や、業界団体や企業間で策定した「フォーラム標準(コンソーシアム標準)」があります。Blu-ray、LTE、JPEG等が「デジュール標準」、Bluetooth等が「フォーラム標準」の例です。
「デジュール標準」を制定する国際標準化団体としては、ISO(国際標準化機構)、IEC(国際電気標準会議)、ITU(国際電気通信連合)等の国際標準化団体が知られています。
日本の国内標準や国内法令は、WTO(世界貿易機関)のTBT協定で定められた国際標準優先(加盟国が標準を導入する際には国際標準を基礎として用いなければならないという決め事)により、国際標準に整合させることが求められています。
また、日本の国内標準化団体としては、JISC(日本工業標準調査会)があり、JISCが制定した国家標準が、JIS(日本工業規格)です。
「私的なもの」としては、企業努力によって勝ち得た事実上の標準、いわゆる、「デファクト標準」があります。TCP/IP、イーサネット(Ethernet)、Windows等がデファクト標準の例です。
種類 | 内容 | 例 | ||
コンセンサス標準 | 一般的に合意によって生まれた標準 | デジュール標準 | 公的な機関・組織が制定 | ・Blue-ray
・LTE ・JPEG |
フォーラム(コンソーシアム)標準 | 企業間、産業団体が制定 | ・Bluetooth | ||
デファクト標準 | 企業努力で勝ち得た事実上の標準 | ・TCP/IP
・イーサネット ・Windows |
IoTでは、私たちの身の回りにあるモノ、例えば、パソコン、スマートフォン、自動車、家電等がインターネットを介して相互に接続されるようになります。 しかしながら、これらのモノ同士の接続方法や、モノ同士で送受信されるデータの形式等がバラバラであったのでは、IoTの利便性が失われてしまいます。
IoTのメリットを生かすためには、モノ同士の接続方法や、モノ同士で送受信されるデータの形式等を統一し、標準化を進める必要があるのです。
「標準必須特許(SEP)」とは、標準規格に準拠した製品を製造・販売等する場合に、避けては通ることができない特許をいいます。企業は、標準規格に関する技術開発に巨額の費用を投資するとともに、その技術の成果を特許で保護しています。
このため、多くの標準規格は、多数の特許(標準必須特許)で保護されており、例えば、LTEには約6,000件(約50社)の標準必須特許が存在します。
標準必須特許には、無償で提供される特許(例えば、Bluetooth)もありますが、標準化に参加する企業は、標準必須特許のライセンス料収入によって投資費用を回収しようとするのが一般的です。
しかしながら、標準必須特許のライセンス条件に関する紛争の発生や、保有する特許権を行使して巨額なライセンス料や賠償金を請求する「パテント・トロール」の存在等が問題になっています。
2011年9月、Samsungが、UTMS規格(第三世代携帯電話の規格)の標準必須特許に基づいて、Appleに対して特許権侵害訴訟(損害賠償請求、差止請求)を提起しました。 その後、Appleは、Samsungの特許権侵害訴訟に対抗し、自社の製品が標準必須特許の侵害に該当しないことを理由として、特許権侵害に基づく損害賠償請求権の不存在の確認を求め、債務不存在確認訴訟を提起しました。
この債務不存在確認訴訟において、東京地裁は、Samsungが誠実交渉義務に違反した行為を行ったとして損害賠償請求を棄却し、知財高裁は、FRAND条件を超える損害賠償請求については権利の乱用に該当すると判示するとともに、損害額としてFRAND条件下のライセンス相当額を認定しました。
FRANDは、「Fair(公正)、Reasonable(合理的)、Non-discriminatory(非差別的)」の略で、FRAND条件とは、「公平、合理的、かつ、非差別的」な条件のことです。 標準化団体は、標準規格の策定時に、標準必須特許を有する特許権者(企業等)に、FRAND条件下でのライセンスを行なう意思を表明(FRAND宣言)させることで、標準必須特許に関連する紛争等を回避する対策を行っています。
従来の標準必須特許に関する紛争は、スマートフォン等の情報通信分野が中心でしたが、IoTの普及に伴って、あらゆる分野において各種の標準化が進むことが予想されることから、自動車、家電、ロボット等の分野においても同様の紛争が増える可能性があります。
このため、IoT関連企業にとっては、IoTに関連する標準化や標準必須特許の動向を知ることが極めて重要です。
標準必須特許が存在するかどうか等の判断や、特許ライセンス契約には、専門的な知識や経験が必要になりますので、まずは専門家にご相談ください。
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