特許庁の審査を無事に通過しても、利用価値の低い特許を取得したのでは意味がありません。それでは、利用価値の高い特許(使える特許)とは何でしょうか?
特許取得の目的は、企業の規模や業種等によって様々であり、「使える特許」の定義を一般化することは困難です。ライセンス収入が目的の企業があるかもしれませんし、競業他社による特許取得を防ぐための防衛特許が目的の企業もあるかもしれません。
しかしながら、特許取得のメリットは、特許発明を独占排他的に利用できることですので、特許取得の最大の目的は、特許発明に係る商品やサービスを独占し、競業他社の参入や模倣を防ぐことにあるはずです。
※特許庁より引用
それでは、使えるIoT特許(利用価値の高いIoT特許)とは、どのような特許でしょうか?
2-1.権利一体の原則
特許権の直接侵害となる対象は、特許請求の範囲(特許の権利内容)に記載されたすべての構成を備えた物や方法に限られるのが原則です。この原則を、「権利一体の原則(オールエレメントルール)」といいます。
例えば、あるキーワードが入力された場合に、このキーワードに関連する関連キーワードを抽出するIoT特許があり、特許請求の範囲には、「キーワードと関連キーワードが関連付けされたテーブル」を利用して関連キーワードを抽出する方法が記載されているとします。
下記の例では、関連キーワードの抽出にAIを利用しており、キーワードと関連キーワードが関連付けされたテーブルを利用しているわけではありませんので、「特許請求の範囲に記載されたすべての構成(テーブル)を備えた方法(抽出方法)」を実施しているわけでありません。よって、この抽出方法をサービスとして提供する行為は、IoT特許の直接侵害には該当しません。
このようなケースでは、直接侵害が成立しませんので、間接侵害等の他の方法で対抗しなければならず、侵害を立証するための負担が大きくなります。
IoT関連技術では、
『従来の製品やサービスの一部をAIに置き換えただけの製品やサービス』
が想定されます。
先の例において、テーブルの利用とAIの利用の両方を含むIoT特許を取得することができれば、サービスの提供者に対して直接侵害を主張することが可能となり、他社の参入や模倣を防止し、自社のサービスを独占的に実施することができます。
このような使えるIoT特許(利用価値の高いIoT特許)を取得するためには、IoT関連の特許出願を行う前に、特許の権利行使の場面を想定し、第三者による実施行為の態様等を事前に検討することが極めて重要です。
2-2.実際の裁判例
『freee(フリー) v.s. マネーフォワード(平成28年(ワ)第35763号 特許権侵害差止請求事件)』
会計科目の自動仕分けを行う特許(特許第5503795号/会計処理装置,会計処理方法及び会計処理プログラム)の特許権者であるフリーが、マネーフォワードが提供するサービスが自社の特許を侵害するとして、特許権侵害差止請求訴訟を提起しました。
下記のように、フリーの特許は、「摘要」のキーワードと「勘定科目」のキーワードが関連付けされたテーブルを利用して会計科目の自動仕分けを行うものですが、マネーフォワードが提供するサービスは、テーブルを利用するものではなく、機械学習により自動仕分けを行うものであるとして、フリーによる特許権侵害の主張は認められませんでした(平成29年7月27日東京地裁判決)。
先の例で説明したように、もし、フリーが、テーブルの利用とAIの利用の両方を含むIoT特許を取得していたら、結果は違っていたものと思われます。
IoTビジネスの発展に伴って、大量のデータをAIを利用して分析・処理するサービスが増加することが予想されますので、IoT関連の特許出願を行う前に、特許の権利行使の場面を想定し、第三者による実施行為の態様等を事前に検討することが極めて重要です。
使えるIoT特許(利用価値の高いIoT特許)をいち早く取得するためには、専門的な知識や経験が必要になりますので、まずは専門家にご相談ください。
特許の専門家に相談する