IoTによって収集される情報のデータ量は、人間では処理できないほどの膨大なデータ(ビッグデータ)となります。
このため、IoTによって収集されたデータは、AIによる機械学習(特に、ディープラーニング)によって分析・活用等を行うことが一般的になりつつあります。
※特許庁HPより引用
ところで、AI関連技術は、従来より特許出願がなされており、すでにAI特許は多数存在します。
しかしながら、(1)IoTの発展によってデータが収集しやすくなった、(2)機械学習(ディープラーニング)の技術が飛躍的に進化した、(3)サーバの処理能力やネットワークの通信速度が向上した、等の理由から、機械学習がより身近なものとなってきています。
2017年9月15日付け特技懇No.286「第四次産業革命下におけるIoTに関する現状認識」によれば、
『AIの利活用のモデルとして、(1)AIの学習に用いる教師データの作成プロセス、(2)教師データを用いたAIの学習プロセス、(3)学習済みAIを用いたAIの利用プロセス、の3つのプロセスからなるモデルを想定した場合、各プロセスにおいて、様々な知的財産が創出される』
とされています。
※2017年9月15日付け特技懇No.286「第四次産業革命下におけるIoTに関する現状認識」より引用
AI関連発明の特許出願の件数は、2015年から2016年にかけて、前年比約78%という大幅な伸びを示しています。
また、AI関連発明の特許査定率は、2010年から、約90%という高い水準を維持しています。特許査定率の平均値が50%~60%程度であることを考えると、AI関連発明の特許査定率が極めて高い(=特許を取得しやすい)傾向にあることが分かります。
※2017年9月15日付け特技懇No.286「第四次産業革命下におけるIoTに関する現状認識」より引用
AI技術を利用したIoTビジネスを行うためには、「どのようなAI特許が存在するのか」、「AI技術は、特許法によって、どのような保護を受けることができるのか」等を十分に理解した上で、特許査定率の高いうちに(特許が取得しやすいうちに)特許出願をしておくことが重要となってきています。
事例1
発明の名称:複数の産業機械の作業分担を学習する機械学習装置,産業機械セル,製造システムおよび機械学習方法
特許番号:特許第6114421号
登録日:平成29年3月24日
権利者:ファナック株式会社
【請求項1】 複数の産業機械により作業を行い、前記複数の産業機械におけるいずれかの産業機械が停止した場合に、停止した前記産業機械の作業を、停止した前記産業機械を除く残りの産業機械で分担するように、作業分担を学習する機械学習装置であって、 前記複数の産業機械の状態量を観測する状態量観測部と、 前記状態量観測部により観測された前記状態量に基づいて、前記複数の産業機械に対する作業分担を学習する学習部と、を備え、 前記状態量観測部は、 前記複数の産業機械により繰り返し行われる一連の作業の開始から終了までの作業時間、および、前記作業の開始から終了までの,前記複数の産業機械のそれぞれにおける作業負荷を観測し、 前記学習部は、 前記状態量観測部の出力に基づいて、前記作業負荷が、前記産業機械が許容する負荷を超えるときはマイナス報酬を設定し、前記作業時間を短縮できたときはプラス報酬を設定し、前記作業時間を短縮できなかったときは報酬なしを設定する報酬計算部と、
前記状態量観測部の出力および前記報酬計算部の出力に基づいて、前記複数の産業機械に対する作業分担の価値を定める行動価値テーブルを、前記報酬に応じて更新する価値関数更新部と、を備える、 ことを特徴とする機械学習装置。
事例2
発明の名称:モバイルデバイスユーザの将来の状態を予測することに関する方法
特許番号:第6109972号
登録日:平成29年3月17日
権利者:フェイスブック,インク.
【請求項1】
方法であって、
1つ又は複数のコンピューティングデバイスが、ユーザによる現在のモバイルデバイス使用を示す第1のデータを受信すること、
1つ又は複数のコンピューティングデバイスが、ユーザの複数の過去のユーザ状態に関連する第2のデータにアクセスすることであって、各過去のユーザ状態は、時間に対応し、かつユーザの時間的、空間的、またはモーダル的アクセス可能性を示す、前記第2のデータにアクセスすること、
1つ又は複数のコンピューティングデバイスが、将来の時間におけるユーザの将来のユーザ状態を決定すること、
ここで、決定は、重み付けされた一組の予測器関数に基づき、各予測器関数が特定のユーザ状態に関して訓練される機械学習アルゴリズムを含み、
各予測器関数は、前記第1のデータおよび前記第2のデータの複数の過去のユーザ状態に基づいて特定のユーザ状態の可能性を計算し、前記複数の過去のユーザ状態の各々は、対応する時間に基づく減衰ファクタによって重み付けされており、
特定のユーザ状態の一つが、将来のユーザ状態として選択され、
1つ又は複数のコンピューティングデバイスが、前記将来のユーザ状態に基づいて前記将来の時間におけるユーザのモバイルデバイスのオペレーションを適合させることを含み、オペレーションを適合させることが、ユーザのモバイルデバイスに送信される第3のデータの特性を変更することを含む、方法。
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上述のとおり、AI関連技術は、従来より特許出願がなされており、すでにAI特許は多数存在します。
しかしながら、AI関連発明の特許出願の件数は、年々、増加しており、その特許査定率は、2010年から、約90%という高い水準を維持しています。
なぜ、AI関連発明は、他の分野に比べ、特許査定率が突出して高いのでしょうか?
AI関連発明も、(1)新規性(新しいかどうか)、(2)進歩性(容易に考え出すことができないか)等々の特許要件を満たす必要がある点については、他の分野の発明と違いはありません。
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ところが、機械学習が実用可能なレベルに達したのは最近のことであるため、AI関連発明のほとんどは、新しいアイデア、すなわち、「新規性」があるアイデアであり、AI特許取得のポイントは、「進歩性」があるか無いかに絞られます。
『4.AI特許事例』でご紹介したAI特許の内容を見ても分かるように、「進歩性」のハードルはそれほど高いものではなく、機械学習に用いるパラメータや、機械学習によって導き出す条件等に新規性があれば、発明全体としては、進歩性が認められる可能性が高く、このことが、AI関連発明の特許査定率が極めて高い(=特許を取得しやすい)傾向にある要因になっているものと思われます。
AI技術については、いかに「進歩性」を主張できるかがポイントであるとともに、想定される他社の侵害行為等を、従来よりも強く意識して特許書類を作成する必要があります。せっかく特許出願したのに「権利化できない特許」や「使えない特許」にならないよう、まずは専門家にご相談ください。
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