企業で商品やサービスを新規に開発する場合や、研究者が新たな研究開発を行う場合等において、特許公報や特許公開公報等の「特許情報」を利用することで、他社の開発動向や、最先端の技術等を把握することが可能になります。
しかしながら、膨大な特許情報の中から単に必要な特許情報だけを抽出するだけでは、多くの時間と手間がかかる割に、利用価値が低く、効率的とは言えません。
そこで、利用目的に応じて抽出した特許情報を収集、分析、加工、整理することによって、特許情報の「見える化」を行い、特許情報を視覚的に把握することが重要になります。
このような観点から、特許情報を収集、分析、加工、整理することによって、特許情報を図面、表、グラフ等で表したものを「パテントマップ」といいます。
例1)H社の出願公開された特許件数(2016年)
例2)自動車大手4社の出願公開された特許件数(2016年)
パテントマップは、企業で商品やサービスを新規に開発する場合や、研究開発者が新たな研究開発を行う場合等に、開発戦略を考えるために有効な手段の一つであり、知りたい情報に応じて様々な種類があります。
以下、パテントマップの種類を紹介します。
【説明】特許情報に存在する様々なデータを件数の多い順に並べたマップ。
図-1 2015年~2016年 IPC分類別出願件数(A社)
上図では、10種類のIPC分類のうち、IPC分類「H01M8/10」(固体電解質をもつ燃料電池)に関する特許出願件数が197件あり、10種類のIPC分類の中で、一番件数が多いことを視覚的に把握することができます。
【説明】特許情報に存在する様々なデータの集計結果を件数で表すランキングマップに対して、データ項目の占める割合(占有率)を表したマップ。
図-2 2015年~2016年 IPC分類別出願件数(A社)
上図では、10種類のIPC分類のうち、IPC分類「H01M8/10」(固体電解質をもつ燃料電池)に関する特許出願件数の割合(占有率)が、一番多いことを視覚的に把握することができます。
上図では、5名いる発明者の時系列での特許出願件数を視覚的に把握することができます。また、2014年は、4名の発明者が他の年度に比べて特許出願を多く行ったことが視覚的に把握することができます。
上図では、10社(A社~J社)の3年間の特許出願件数の変化を同時に視覚的に把握することができます。また、2014年から2016年にかけて、年々、特許出願件数が減っていることが分かります。
上図では、2016年はIPC分類コード「B60W20/00」(ハイブリッド車両に特に適した制御システム)に関する公開出願件数が、4社の合計で一番多いことを視覚的に把握することができます。
上図では、X社のO氏が共同発明をしている発明者のランキングを見ることができ、一番多い共同発明者がA氏であることを視覚的に把握することができます。
上図では、X社では1998年から「コンクリート」、「道路」、「トンネル」をキーワードとした研究開発が開始されていることを視覚的に把握することができます。
上図では、A社における免震構造建築において、1の段階までがライフサイクルの成長期であり、2の段階が発展期、3の段階が成熟期、4,5の段階が衰退期であることを視覚的に把握することができます。
※特許庁より引用
上図では、ヒューマンインターフェースにおいて、第1世代ではCRT表示装置、第2世代では液晶表示装置や音声案内、第3世代では音声入力(認識)、第4世代では有機EL表示装置という技術の流れを視覚的に把握することができます。
表-1 A社における特許情報の要旨マップ
上表では、A社が発明した特許情報の概要を容易に確認することができます。
上図では、自転車技術に関する特許において、制御装置に関する特許の件数が2000件、座席に関する特許の件数が1500件であることを視覚的に把握することができます。
上図では、A社において、IPC分類コード「B60W50/」(特定の単一のサブユニットの制御に関するものではない道路走行用車両の運動制御システムの細部)に関する特許出願の件数が一番伸びていることを視覚的に把握することができます。
※「研究開発者の為の簡単パテントマップより」引用
上図では、B社において、「酵素指数」、「原子価」、「共役ジエン系重合体」などのキーワードが独自の研究テーマであることを視覚的に把握することができます。
表-2 クレーム権利相関度判別マップ
※「研究開発者の為の簡単パテントマップより」引用
上図では、縦軸に同一属性のクレームキーワードを出願日順に配列し、横軸にはそのクレームキーワードを有する請求項を出願日順に配列してマトリックスを形成しています。
クレームキーワードが新規のものであれば○印、既存のものであれば●印をプロットすることで、或るキーワードが新規なものであるか否かを視覚的に把握することができます。
必要な情報のみを効率的に取り出すことができるように、情報整理をする手段としてパテントマップが用いられます。パテントマップを作成することで、新たな研究開発投資や技術導入などを行う際には非常に重要なツールとして、事業が成功できるか否かについての指標の判断にすることができます。
表 – 1 パテントマップによる分析内容と戦略的利用目的との関係
パテントマップによる分析内容 | 研究開発での戦略的利用目的 | |
出願人に
よる比較 |
・同一、類似の研究開発企業はどこか
・各社の研究開発の方向・分野を知る ・共同開発パートナーを知る |
・自社との違いを認識する
・開発競争で勝てるか判断する ・戦力補強の狙いを知る |
発明者に
よる比較 |
・同一、類似の研究開発者は誰か
・各人の研究開発の方向・分野を知る ・各人の最近の注力内容を知る |
・自分との違いを認識する
・優位な開発の有無を判断する ・開発の軌道修正を検討する |
※「研究開発者のための簡単パテントマップ」より引用
パテントマップを利用して複数の研究開発テーマから研究開発の方針や方向性を絞ることで、無計画に研究開発を行うよりも、はるかに有効な研究開発が行えます。その結果、研究開発テーマを確立するために必要な多大なコスト(研究設備費、人件費等)を抑えることができ、研究開発コストを削減することが可能となります。
国内競合他社の特許出願 に関する調査
<想定事例>
C社は、自社の事業である「橋梁」事業について、競合関係にある国内他社(X社、Y社、Z社)の動向を知りたいと考えています。C社には、特許パテントマップを作成できる人材がいないため、特許パテントマップの作成を外部(特許調査会社)に依頼することにしました。
1.調査目的
C社の競合関係にある国内他社(X社、Y社、Z社)の特許出願(公開特許公報のみ。特許公報を除く)の調査を行い、「特許マップ」、「競合他社特許出願情報」および「3件抄録(公開特許公報の要約のリスト)」を作成する。
なお、特許マップは、「課題」×「解決手段」×「出願人」の3軸マップ とする。
2.検索条件
本調査をするにあたっての検索条件は、下記の通りです。
2-1.検索対象期間
2017年1月~2017年6月(公報発行日)
2-2.検索ツール
JP-NET(日本パテントデータサービス株式会社)
2-3.検索対象競合他社
検索対象競合他社は、下表の3社が対象となります。
№ | 会社名 | カテゴリー |
1 | 株式会社Xブリッジ (以下、X社) | 橋梁 |
2 | Y工業株式会社 (以下、Y社) | |
3 | Z機工株式会社 (以下、Z社) |
2-4.検索対象カテゴリー
「橋梁」で実施しています。
3.検索結果
2.検索条件を使用して検索を行った結果、カテゴリー「橋梁」に関する公開特許公報が11件ヒットしました。
次に、検索結果を基にマップ上で分析した結果は下記のとおりです。
(1)特許マップ(「課題」×「解決手段」×「出願人」)
図-1.「課題」×「解決手段」×「出願人」のマップ
(2)競合他社特許出願情報
(1)特許マップに記載のカテゴリー番号(小分類№1~11)と紐づく、出願人(競合他社の社名)、特許出願の公開番号、発明の名称等の情報は、下記の通りとなります。
図-3. 競合他社特許出願情報
(3)3件抄録
検索でヒットしたX社の特許公開公報(7件)のうち、C社の事業内容に関連するものを、3件抄録(公開特許公報の要約のリスト)として提示します。
図-4. 3件抄録
4.コメント
今回の調査結果をまとめると、以下の通りです。
「橋梁」について、X社の文献が7件、Y社の文献が3件、Z社の文献が1件見つかりました。
「(1)特許マップ(「課題」×「解決手段」×「出願人」)」によれば、各社の特許出願の内容は分散していますが、「床版」に関しての特許出願が全体のおよそ40%(=4件/11件)を占めていることが分かります。
ここでは、最も割合の多い「床版」に注目し、「解決手段」としておよそ50%(=5件/11件)を占めている『構造改良』の特許出願(X社の2文献(小分類№2、小分類№5))について分析します。
【小分類№2】について
「(2)競合他社特許出願情報」と「(3)3件抄録」を参照すると、X社では、プレキャストコンクリート床版の形状を複雑にしないために、床版について構造の改良(排水機能を持つ管理用通路と、車道部が、概ね一連のフラット面として形成するなど)を行っていることが分かります。
【小分類№5】について
「(2)競合他社特許出願情報」と「(3)3件抄録」を参照すると、X社では、中間支点部など特定の箇所に対して他よりも大きなプレストレス力を導入するために、床版について構造の改良(緊張材の定着部を、中間プレキャスト床版底面より下方に突出した定着面に置いたことから、床版全体の強度を維持することができるなど)を行っていることが分かります。
以上
パテントマップ作成の流れについてのお客様とのやり取りは、以下のフローを基本として行います。
ご不明な点などは、遠慮なくお問い合わせください。
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